めずらしく早く目が覚めた。時計を見て驚く。今日は平日の休みなのに出勤時よりも早い。なんだか損した気分だ。せっかくの休みなのに、こんなに早く起きるなんて。二度寝をしようかとも思ったが、体はすっかり目覚めていて結局布団を抜け出した。
なんとなく外に出てみる。街はまだ眠っているかのような、静かな朝。いつもならバタバタと忙しそうに歩く人々の姿もなく、冷たい空気が心地よい。秋の訪れを感じさせる風が優しく顔を撫でる。駅に向かってのんびり歩いていると、小さなカフェが目に入った。
「ああ、ここだ…」と思い出す。ずっと気になっていたのに、いつも忙しくて入れなかった店。早朝にもかかわらず灯りがついている。今日はそのチャンスだ。
扉を開けると、店内には引き立てのコーヒーの香りが漂い、一瞬で心がほぐれた。カウンターの奥には、年配のマスターが静かに佇んでいる。背筋を伸ばし、落ち着いた動作でコーヒーを淹れている姿からは、長年この店を守ってきた風格が感じられる。銀髪に少ししわのある顔は優しげで、目が合うと、穏やかな笑みを浮かべて軽く会釈をしてくれた。(このマスターの柔らかな笑顔が、さらに店内の空気を温かくするようだった。)
木の温もりが感じられる小さなテーブルに座り、コーヒーとサンドイッチを注文する。
コーヒーをひと口飲むと、深い苦みと香ばしさが口の中に広がる。その苦みが次第に心地よくなり、体の奥まで染み渡るようだ。
サンドイッチのパンはふんわりとしていて、具材はシンプルだが、厚切りのベーコンと新鮮なレタス、完熟トマトが絶妙なバランスを保っている。ベーコンの塩気がトマトの自然な甘みと絡み合い、シャキシャキとしたレタスが食感にアクセントを加える。マスタードとほんのり甘いマヨネーズが、全体をまとめている。シンプルながらも、一口ごとに深い味わいが広がり、なんとも満足感を与えてくれる。
損したように思えた朝が、こんなに素敵な時間に変わるとは思わなかった。静かな街と温かなカフェの中で、自分だけの特別な朝が始まっていた。
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