卵かけご飯

残業を終え、ふらふらした足取りで家路を急ぐ。時計は既に深夜を回り、人気のない街は静かに眠っていた。いつもなら立ち寄るお店もすべて閉まっており、疲れ切った体で家に着いてから何を食べようか考える余裕もない。

途中、ぽつんと明かりが灯っているコンビニに入る。お腹は空いているものの、料理する気力は残っていなかった。レジへ向かう途中、ふと生卵が目に入る。さすがは地元密着のコンビニ、フランチャイズ店とは少し違う品揃えだ。何となく卵を一パック手に取った。普段はほとんど卵を買わないが、今日はなぜかそのままカゴに入れてしまった。

家に帰り、袋を開けると、買ってきたおかずは思ったよりも魅力的に見えない。キッチンに立つのも億劫で、ため息が出る。ふと目に入ったのは、あの卵。どうしようもないので、卵かけご飯を作ることにした。

炊飯器を開け、残っていたご飯に卵を割り入れる。新鮮な卵の黄身はしっかりと丸みを保っている。醤油をひと回し。卵をかき混ぜて口に運ぶと、じんわりと懐かしい味が広がった。子供の頃によく食べた卵かけご飯の味だ。学校から帰ってきて、塾へ行く前に慌ただしく食べた夕食。母はいつも笑顔で「卵かけご飯は、時間がなくてもちゃんと食べられる!しかも卵は完全栄養食品だから最高よね!」と言いながら卵を渡してくれた。

そんな昔のことを思い出し、何だか心が温かくなる。疲れているはずなのに、不思議と少し元気が出た。布団に入ると、心地よい疲れが体を包む。ふわっとした満足感の中で、自然と「明日も、頑張れそうだ」と小さくつぶやく。

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